田舎町を離れて随分、年月が経っている。それはそうだ。ワシは、立派なハゲた爺さんになった。学生のころは、子どもが多くて楽しかった。いろんな行事があり、祭りもあり、運動会では地区リレーというものもあった。
自然にも囲まれて学校の帰りには、セミやクワガタを捕りながら帰ったものだ。秋になればミカンが色づき、食べながら帰ったときもある。
しかしみるみる人口が減っていき、近所では継ぐ者が減っていった。そのころ、ワシも市内へ移り住んだ。
ワシが育った人気がない部落に足を運んだ。ちょうどミカンが色づいている。まったく世話をしていないのだろう。ぎっしりと実がなったままだ。ひとつ食べてみる。
「おじさんは、誰?」
振り向むくと、黄色の帽子を被った少年が、不思議そうにワシを見ている。日に焼けていないのか色白というより、不気味に青白い肌に近い。帽子は、小学校のロゴが張ってある。ワシのときと同じものだ。
「ワシかい。おじさんの故郷だから、来てみたんだよ」
少年は、目を輝かせた。おでこを触った。仏像みたいなホクロがある。気にしているのだろうか?
「坊やは、近くに住んでいるのかい?」
「うん、そうだよ。おじさん、お帰り。うちに来ない?」
「いいのかい」と尋ねると、少年は頷いて手招きした。
ぐんぐん前を歩いていく少年を追っていた。少年の歩くスピードには、付いていけなかった。いくら進んでも、少年の姿は見えなくなった。
ワシの脳裏によみがえった。あれは……ワシの弟。弟は、おでこを気にして、隠す癖があった。
小学生のとき、川で一緒に遊んでいて弟は溺れて流された。見ているだけで何もできなかった。その後、どんなに遺体を捜したが発見できなかった。
なぜ、ワシの前に姿を……。そんなはずがない。大群のカラスが鳴いている。ひんやりとした汗をかく。辺りを見渡すが、まるで幽霊屋敷になっている。
家の呼び出しを押してみた。音すら鳴らない。少年の姿も見えなかった。
帰ることにした。出入り口まで差し掛かると、でかい塀で封鎖されていた。道は1本しかない。
「誰かいませんか。出してください。この町から出してくれ。お願いです」
「おじさん、これ」
先ほどの少年が後ろにいた。1枚の紙を渡され見ると、周辺の地図だった。しかし、この町の名前がない。消えた町だったのだ。
「坊や、どういう……」
頭を上げると、少年は消えていた。すぐさま、空のかなたから声が聞こえた。
「おじさんの町はない。お前らは、僕を見捨てた」
2009年07月01日
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