2009年11月01日

小説【浮気調査】

 「調べてほしい」と言われた私は、依頼を受けた。探偵歴30年のキャリアがあるのだから、浮気調査は何度もしてきて慣れている。しかし、今回は様子がおかしい。3ヶ月になるのだが、何ひとつとして証拠を掴めていない。
 浮気の証拠になるものには、ツーショットの姿を捉えることが大前提にある。他には、肩を組んだりキスを交わしたりしている姿を写真に収めることが基本。徹底的に納得させるには、ラブホテルを利用した証拠。性交している声だったり領収書の入手だ。
 依頼主の妻は、別の男といることがほとんどいない。あったとしても、同僚であり仕事柄の関係なのだ。失礼だけど、特別美人でもないため、モテているふうでもない。私は焦り始めた。
 依頼主の妻は、真面目で仕事が終われば、真っ直ぐに帰宅する日々。3ヶ月も経てば、たんなる誤解だろうと思うようにもなった。
 だが、依頼主は、「そんなはずがない!」と言い切るのだ。私もそんなはずがない、と言いたいところまで来ている。あくまでも逆の意味になる。
 
 数枚の写真を並べて眺めた。いったいなぜ、これほどまで証拠が掴めないのだろうか?
 男がいない。いるはずの男の形跡がないのだ。同僚に聞き込みしても、男がひとりも浮上してこない。これが謎だった。
 私は、誤解していた。この世の中にいる人間を間違った目で見ていた。視点を変えてみた。いつも女同士で行動している。昼休みも帰宅のときも、いつも同じ女がいる。謎が解けた。
 真の姿をいうべきか、もうひとつの姿というべきか、もうひとつの心というべきか迷いながらも、事務所のビルへ依頼主を呼び出した。
「奥さんのことを、どこまでご存知ですか」
 私は、平凡な質問をしてみた。承知の上で夫婦になったのならば、救われる思いがしている。
「どこまでと聞かれましても……」
「そうですか。どんな結果であれ受け止められますか」
「覚悟の上で、依頼したんだ」
 その覚悟の上というのは、浮気イコール自分以外の男がいると思っているに違いない。私も、数分前までそう思っていた。
 ゆっくり数枚の写真をトランプみたいに依頼主の前に並べた。その写真は、依頼主の妻と同僚の女と団体での写真など。
「これが、証拠です」「ぜんぶ、女じゃねぇかよ」
「そうです。よく見てください。隣にはいつも同じ女性です。ハッキリ言います。奥さんは、レズビアンの可能性あります。両方、愛せる心の持ち主だと結論に至りました」
 依頼主は言葉を失い呆然としていた。
「大丈夫ですか」
「あぁ、俺も同じようなものさぁ」と言って、依頼主は出ていった。

posted by yamapi at 17:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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